9月4日(金)
「絵本を使った授業をするので、校長先生よければどうですか。」
そんなお誘いをいただき、1年生の社会科の授業を参観しました。
本校では、先生どうしが授業づくりを見合い、学び合う「公開授業」の取組を進めています。学力向上担当の先生方が提案してくれたもので、「見てほしい授業があります」と職員室のホワイトボードに記載し、参観を呼びかけるスタイルです。とても素敵な取組だと思っています。
この日も、多くの若手の先生方が教室を訪れていました。生徒だけでなく、先生たちも学ぶ。そんな空気が自然に広がっています。


この授業のキーワードは、「モノカルチャー経済」。
アフリカ大陸には、特定の農作物や鉱産資源の輸出に依存するモノカルチャー経済の国が数多くあります。そのメリットとデメリットを考えながら、なぜそのような経済構造になったのかを探っていく授業です。
そして、ここで登場したのが2冊の絵本でした。
先生が絵本の内容を紹介した瞬間、教室の空気が少し変わったことが分かりました。ヨーロッパ諸国が大航海時代をどのように進めたのか。アメリカ大陸の発見。「植民地」や「奴隷」という言葉について、先生は丁寧に背景を示しながら説明していきました。
「モノカルチャー経済」という言葉だけを取り出せば、社会科の専門用語の一つです。しかし、その言葉の背景には、人々の暮らしや歴史があります。絵本という媒体を通して、その重みが生徒のみなさんにしっかり届いていたように思います。生徒のみなさんは静かに耳を傾け、歴史を歴史として受け止めようとしていました。その姿がとても印象的でした。


授業全体を通して感じたのは、メリハリの心地よさです。先生の説明を聞く時間、静かに考える時間、対話する時間がはっきり区別されていました。ペアワークや全体交流では、生徒のみなさんが安心して考えを発信しています。一方で、考えるべき場面では落ち着いて思考に向かっています。
1学期当初と比較しても、「授業の波に乗る」ことを意識できるようになってきたことが伝わってきました。不規則な発言も減り、学びに向かう表情も落ち着いています。授業は先生だけがつくるものではありません。生徒のみなさんと共に学びの場を形づくっていくものです。その意識が着実に育ってきています。
また、担当の先生のファシリテートも見事でした。問いの設定が秀逸です。伝え方の強弱も絶妙です。重要な場面ではぐっと引き込み、考えさせる場面ではしっかり待つ。生徒のみなさんの反応を幾通りも想定しているのでしょう。どんな反応にも受け止めて返せる懐の深さがあります。中堅教員として積み重ねてきた経験と力量を感じました。

そして、何より感心したのは学びの文脈です。 私は中学生の頃、地理という教科は地名や特産物、気候区分や専門用語を覚えることが中心だと思っていました。もちろん知識は大切です。しかし今振り返ると、それぞれの言葉や地名がなぜ存在しているのか、その背景まで考える機会はあまりなかったように思います。
今回の授業を参観しながら、一つの専門用語にも「履歴書」があるのだと感じました。
なぜアフリカ大陸にはモノカルチャー経済の国が多いのか。 その問いを追いかけていくと、植民地の歴史にたどり着きます。
一つの用語を覚えるだけなら数分で済むかもしれません。しかし、その言葉の「来た道」をたどることで、世界の見え方は大きく変わります。アフリカ大陸から始まった50分間の旅は、気が付けば歴史へとつながっていました。地図の上の国境も、輸出品のグラフも、決して偶然そこに存在しているわけではありません。その背景には長い歴史があります。そして歴史によって形づくられた世界は、今も私たちの社会に影響を与え続けています。
地理があるから歴史が生まれる。歴史が地理を変えていく。社会科という教科のダイナミックなつながりを、1年生の今から感じられるように授業が設計されていました。この先、2年生で歴史を学び、3年生で公民を学ぶとき、今日の授業はきっとどこかで生きてくるはずです。目の前の用語を覚えるだけではなく、その背景を問い、つながりを発見していく。おそらく、それこそが「深い学び」であり、「真正な学び」なのだと感じました。

欲を言うならば、ヨーロッパ側とアフリカ側の視点を往復する場面や、「モノカルチャー経済から脱却したいと思っているのだろうか」といったクリティカルな問い、生徒どうしが考えを交流する時間がさらにあれば、より多面的・多角的な学びになったかもしれません。
しかし、そうしたことを考えたくなるのも、この授業が本当に魅力的だったからこそです。目の前の問いを追いながら、その先の学びまで見据える。そんな担当の先生の授業デザインの巧みさと、生徒たちを学びの旅へ導く力量、そしてどっぷりと学びの空気に浸っていく1年生のみなさんの姿が随所に感じられた公開授業でした。
モノカルチャー経済。ただ一つの専門用語を学ぶ授業だったはずなのに、その言葉の来た道をたどることで、地理が歴史につながり、歴史が今の世界につながっていくことを実感することができました。
一つの専門用語にも履歴書がある。
そんな当たり前でいて、とても大切なことを改めて教えてくれた50分間でした。
校長 大江健規
