6月30日(火)
扉を開けた瞬間、そこはすでに日常の調理室ではありませんでした。静かな緊張と高揚が同居する、まるでパリの名店のような----Le Restaurant Himawariのキッチンが、この日だけ姿を現していたのです。

立ちのぼる湯気、軽やかに刻まれる包丁の音、交わされる言葉の間合い。そのすべてが一皿へと収束し、空間全体に美しいリズムを生み出していきます。本日の舞台は、ひまわり学級の自立活動、調理実習。主役は、このキッチンを切り盛りする若きシェフたちです。
この店の魅力は、すでに皿の上だけにとどまりません。ひまわり農園での栽培から、収穫、そして一皿へ----その先には「サービスする」というところまで見据えた学びが通底しています。
素材は「仕入れるもの」だけでなく、自分たちが納得のいくものへと「育てる」ことから始まるもの。その哲学が、このレストランのすべてを貫いているのです。

ひまわり農園で丁寧に育てられたラディッシュを主役に据えた一品、
「ラディッシュの浅漬け 〜ルージュ・ソレイユのマリネ〜」。
白い器の余白を活かし、色彩のコントラストを静かに際立たせる盛り付けは見事で、視線すらデザインされているかのようです。シャキッと弾ける歯触り、その後に広がるやわらかな塩味とみずみずしさ。素材を知り尽くしているからこそ生まれる「引き算の美学」。まさに夏の扉を開くにふさわしい、軽やかで品のある前菜でした。
メインは圧巻です。同じく農園で収穫された立派な茄子。その艶やかな紫に寄り添うように、カリカリに焼き上げられた豚肉を忍ばせ、全体をまとめ上げるのは、オイスターソースのコクに砂糖としょうゆ、そしてほのかな酸味を重ねた奥行きある味わい。
「ナス・ファルシ(ポーク)のラケ 〜オイスターのコクを纏うジャポネ・レストラン仕立て〜」。
タレをまとわせることで生まれる上品な艶、縦のラインを意識した立体的な構成、メインとして堂々の配置。ひと口ごとに、なすのやわらかさと豚肉の香ばしさが交差し、最後に旨味が静かに広がる----その余韻設計には思わず唸らされます。構成力、火入れ、そして「食べてほしい」という意志が通った、力強い一皿でした。

そして、ふと浮かんだのです。
「どうして私の好きな味が分かったのか」と。
この説得力は偶然ではありません。栽培の段階から素材と向き合い、仲間と工程を重ね、提供する場面を思い描く。その一連の学びが、この一皿に結実しているのです。
「それ、いいですね」「調味料とってください」「仕上げいきますよ」
キッチンで交わされる言葉の一つひとつが、このレストランの空気をつくり上げていく。役割を果たそうとする責任感と、仲間を支える温かさ。その両方が自然に息づくこの場には、キャリアへとつながる学びの確かな手応えがありました。まるで若きシェフたちの成長を追う物語の中に入り込んだかのような、密度の高い時間です。
ところで----このレストラン、どうやら次なる展開があるとか。秋の収穫に合わせて、カフェ&レストランとしてのオープンを計画しているという噂も耳にしましたが......さて、それは本当なのでしょうか。
謎のまま、秋を迎えることにします。
Le Restaurant Himawariは、
栽培から調理、そして提供へとつながる----物語を生み出すレストランでした。
★★★(OeSelection・three-star)
「また必ず訪れたい。次の一皿に期待せずにはいられない店」。
この自立活動が、これからどのような学びへと広がっていくのか。
キッチンの向こうで、次にどんな一皿が生まれるのか。
その続編を、心から楽しみにしながら、そっと予約の準備を始めました。
校長 大江健規
